~健太いのちの教室~セミナーレポート
昨日、神奈川県損害保険代理業協会みなと支部の通常総会に出席してきました。
総会後に開催されたセミナーでは、「一般社団法人 健太いのちの教室」の代表である田村孝行さんによる講演が行われました。テーマは「命を守る企業防災」と「企業のあり方」。
田村さんの息子さんである健太さんは、東日本大震災で勤務中に津波の犠牲になりました。あまりにも心に突き刺さる内容だったので、その熱の冷めやらぬうちに記事にしたいと思います。
なぜ高台に避難指示をしなかったのか
「仕事をしてるとき、自分の命を守ることを、本気で考えたことがありますか?」
「会社組織として従業員の命を守ることを本気で考えたことがありますか?」
冒頭、田村さんからの問いかけ。ご自身も健太さんを失うまで考えたこともなかったそうです。
息子さんである健太さんが勤務していた、七十七銀行 女川支店は、3.11東日本大震災の大津波で、屋上に避難した職員13名中12名が津波の犠牲となりました。
田村さんの息子さん、健太さんもその一人。
当時、震度6弱の激しい揺れの後、6mの津波警報が発令。出先から戻ってきた支店長の指示で、全員が支店の屋上(高さ10m)に避難しました。しかしその後、警報は10mに。
目の前にある高台「堀切山」は町の避難場所になっており、防災無線でも堀切山への避難を呼びかけていました。銀行からも走れば1分という近さ。町の人たちはみな堀切山に逃げる中、なぜ銀行は屋上に避難したのでしょうか?
健太さんは「まだ間に合う、高台へ逃げたほうがよい」と思っていたようですが、支店長の指示に従うしかありませんでした。
その後、銀行の屋上を軽々と飲み込む16mの津波が容赦なく襲いかかりました。
そして裁判へ
震災後、銀行の対応は田村さんの納得のいくものではありませんでした。
3.11までの防災体制には問題はなかった、津波の想定は5.6mだったと主張。本来、避難場所としていた堀切山へ避難しなかったことについても、「屋上も避難先としてあとで追加していた」などの釈明。企業としての責任は果たしていた、未曾有の災害だからしようがないというスタンス。
企業の管理下で息子を亡くした田村さんとしては、しようがなかったで済むわけもなく、悩んだ末に裁判に踏み切りました。企業管理下での労働災害を「未曾有の自然災害」で終わらせてはいけないと。
残念ながら裁判は、一審・控訴審ともに敗訴でしたが、仙台高裁は「安全を確実に確保する必要がある」と、企業の責任の一端を認めました。
個人的には、今後同様のことがあった場合、企業が「安全配慮義務」を問われるケースが出てくるのでは?と思いました。
この経験から田村さんが「学びを得たもの」を3つにまとめています。
- 安全を確保する事前の備え
「どんな職場でも命より大切なものはない」 - 風土改革
同調圧力を排し、自分の意見を言える、人の話を聞ける柔軟な環境づくり - 良心が必要
愛情・優しさ・寄り添う心 ⇒ 人を一番に考える気持ち
命を守る行動をとった企業もある
一方で、被災地の日本製紙 石巻工場では、震災当日、業務命令として全従業員1,300人に高台避難を指示。
個々の判断に任せることなく、全員が無事に助かりました。
前年のチリ地震の教訓を生かし、命を最優先にする企業の姿勢が明確でした。
また震災以降、「健太いのちの教室」の活動からさまざまな企業や学校などに、命を大切にする取り組みが広がっています。
・静岡銀行:地域住民と合同防災訓練。津波シェルターを導入。人命優先の避難体制を構築(金庫施錠や店舗のシャッター不要ルール!)
・株式会社村尾技建:全拠点でハザード分析⇒BCPチームが安否確認ルール、備蓄、避難行動、発災タイムラインなどを構築。定期的に防災訓練とマニュアル更新(現在Ver.3)
・小学校などで子どもたちに「命の授業」
命を守ることは、未来を守ること
田村さんは、最後にこう語りました。
「命こそ何ものにも代えられない宝」
であり、企業は、人の命を第一に考える文化を育むべきであると。
そして私たち、損害保険代理店に向けては、「“リスクの伴奏者”として、お客さまに寄り添い、“命と生活を守る備え”をともに考える専門家」であり、お客さまへ次のメッセージを伝えて欲しいと語りました。
「命を守る備え=未来を守る」
私たちの社会的使命について、あらためて考えさせられました。
そして小さな会社の経営者として、仕事中でもみんなの命を守るという、当たり前のことが、意識して備えてなければ実はできていないのでは?と思いました。
まずはお客さまに「伝えること」、そして自分たちが率先してモデルとなるような、企業としての仕組みや文化を育成することが必要だと思いました。
長くなりましたが、痛切な思いと大きな教訓があり、色んな気持ちが沸き起こりました。私が書いたつたない記事が、誰かになにか届けば嬉しいです。