ここでは火災保険に付帯できる特約について解説します。主契約ではカバーできない部分は、特約を付帯することでカバーします。

 代表的な特約には「個人賠償責任特約」と「類焼損害特約」があります。今回は「類焼損害特約」を解説します。

火災でお隣さんまで燃やしてしまったら?

 「自分の家の火災でお隣さんまで燃やしちゃったら?これも自分の火災保険で払えるの?」

 こんな質問をよくされますが、結論から言うと火災保険の主契約のみではダメですが、「類焼損害特約」があれば大丈夫です。

 以前の記事④「マンション編」でも書きましたが、火災保険は自分の「モノ」の保険ですから、主契約には他人へ賠償する機能はありません。ですからそのための特約があるんですが・・・。

「法律上の責任」はないけど・・。

 そうなんです、そもそもこのケースは火元になった方に「法律上の損害賠償責任」が発生しないのです。

 日本には明治時代から「失火ノ責任ニ関スル法律」(失火責任法)というのがあって、失火により他人に損害を与えた場合は、重過失によるものでなければ損害賠償責任を負わない、ということになっています。

 したがって個人賠償責任特約ではこのケースに対応できません。「法律上の損害賠償責任」がないからです。(前の記事「【特約編】個人賠償責任特約」を参照

 でも法律上の責任がなくとも、道義的には自分が加害者になったのに知らんぷりもできないはず。そこで「類焼損害特約」があるのです。

 法律上の損害賠償責任がなくても、失火により他人へ与えた損害を補償できる特約です。

被害者側の保険を使うのが基本

 ただし、この特約があるからと言って「全部こちらが払います!」と言ってはダメです!

 お隣さんを燃やしちゃったら、まずお隣さんの火災保険を使ってもらいます。

 すべて先方の保険で賄えてしまえば、こちらの「類焼損害特約」の出番はありませんが、補償が足りてなかったり、家財を保険の対象にしていなかったりするケースはよくあります。

 お隣さんの保険では賄いきれなかった損害や、そもそも火災保険未加入だった!なんて時はすべてこちらの「類焼損害特約」で補償することができます。

 ちなみに火災保険は実損填補の保険ですから二重に支払うことできませんよ!お隣さんが焼け太りすることはできませんので、あしからず。

マンションでは必要ない?

 「火災で近隣に延焼するのは戸建てでしょ?マンションは鉄筋コンクリートだから延焼なんてしないでしょ?」という意見もよく聞きます。

 でもマンションこそ「類焼損害特約」が必要かもしれません。

 たしかに隣に延焼するケースは少ないかもしれませんが、マンションはベランダから上階に延焼する事例が多数あります。ベランダに可燃物が置いてある場合が多いからです。

 そして火災が発生したら消火活動をしますよね。放水したら下の部屋は水浸しです。消火活動による水濡れ損害も火災による損害とみなされるので、「類焼損害特約」でも補償の対象となります。

 「類焼損害特約」の補償対象は隣家に限りません。主に戸建ては水平方向に、マンションは垂直方向に広がる損害をカバーすることになります。

ただし「重過失」と「事業用」は対象外

 自分の家が火災になってお隣さんを燃やしてしまっても、「類焼損害特約」があれば大丈夫!だとわかりましたね。

 でも火災の原因が「重過失」とみなされると話しは変わってきます。

 過去の判例を見ると、「天ぷら油に火をつけたまま部屋を離れた」、「寝たばこの危険性を認識しながら対策せず喫煙を続けた」などにより発生した火災は「重過失」とみなされています。

 「重過失」がある場合は失火責任法が適用されず、法律上の損害賠償責任が発生します。「類焼損害特約」では補償されませんのでご注意を!

 また、延焼先が事業のみに使用される建物や什器・備品等の場合は、補償対象外です。個人の生活用の建物や、その中にある家財のみ対象となりますので覚えておいてください。

まとめ

 「類焼損害特約」についてまとめます。

  • 法律上の責任はなくとも道義上の責任を果たせる特約!
  • 被害者側の保険があればそちらを優先し、不足分をカバーする。
  • 消火活動による水濡れ損害も対象になる。
  • 重過失がある場合や、延焼先が事業用だと対象外!

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